日本の世界史的使命は何か 岩井克人氏

日本の世界史的使命は何か 岩井克人氏 - [日本経済新聞 経済教室記事]

岩井克人 1947年⽣ 東京⼤経卒 MIT博⼠(経済学)理論経済学 東京⼤名誉教授

要旨

いま世界は⼤きく混乱している。だが、混乱の中で⾒えてきたことが⼆つある。

⼀つは、私が好きに学問をしてきた戦後80年近い年⽉が当たり前のものではなかったと
いうことである。
かつて凡庸に⾒えた近代的⺠主主義は、個⼈の⾃由を最低限確保してくれる政治体制
である。それは必然的に到達する「歴史の終わり」ではなく、不断に⽬指し続けなけ
ればならない「歴史の⽬的」なのである。それは明⽇にでも、外部から、あるいは内
部から、簡単に奪われてしまう脆弱な制度でしかない。

⾒えてきたことの⼆つめは⽇本という国の使命である。⻄洋以外で最初に近代化に成
功した⽇本もかつては現在の中国やロシアと同様、近代的⺠主主義を⻄洋的価値とし
て否定しようと試みた。それが⼤東亜戦争を正当化した「近代の超克(ちょうこ
く)」の理念であった。近代を⻄洋と同⼀視し、その世界⽀配からの東洋の解放こそ
⽇本の世界史的使命であると唱えたのである。そして敗戦した。
いま⽇本の使命は異なる。⻄洋から極東と呼ばれたこの島国で、戦後80年にわたっ
て近代的な⺠主主義が曲がりなりにも機能してきた。⾃由がなくては思考ができな
い。その⾃由を当たり前のこととして、私のような⼈間が好きに学問をすることがで
きた。その事実が、近代的⺠主主義が⻄洋的な理念ではなく、洋の東⻄を問わない普
遍的理念であることの証しである。

⽇本の世界史的使命とはどれだけ凡庸であろうとも、そのような社会であり続けるこ
と。そして、その事実を世界全体に向けて語り続けることにある。